仕事を始めて十数年がたつと、後輩や部下ができますね。
自分なりに一生懸命仕事をして、後輩や部下にも丁寧な指導や助言を行ってきていたつもりでも、突然思いもよらないことが起きることがあります。
そう、私は勤続12年目の年に、部下からパワーハラスメントで訴えられてしまいました。
これはもうびっくりしました!
最初に上司からそのことを告げられたときは意味がわからなくてつい、
「本気で言ってますか?」
と聞き返してしまったくらいです。
ただ幸いなことに、私自身はまったく後ろめたい仕事や指導はしてきておらず、最終的にはパワハラとは認定されませんでした。
ただ、場合によっては自分にパワハラの認識がなくても、認定されてしまうこともあります。
ここでは後輩や部下を持つ方や、実際にパワハラで訴えられて困っている人に、私がどう対応し、普段どういった対策をしていたのかを紹介していきます。
私がパワハラで訴えられた!
パワハラの訴えは突然に……
その日は、年度末が近づく2月の始め。
年度内に片付けなければいけない仕事に追われ忙しくしていました。
そんなときに課長から、
「ちょっと時間ある?部長のところに一緒に来れるかな」
と声をかけられました。
時期的に人事の話かなと思い部長のところへ行くと思いがけないことを告げられます。
「えびすくん。今、君がパワーハラスメントで訴えられている。思い当たることはあるかな?」
晴天の霹靂とはこのこと。
まさか自分が訴えられることがあるとはまったく思わず、かなりの衝撃を受けました。
当時の私の仕事と訴えた部下
当時の私は30代半ば、主に会社内の物品の調達や契約業務に携わる係長でした。
訴えらえたのは年度末でしたので、翌年度に向けた様々な契約関係を中心に業務を行っていた時期ですね。
係長としての仕事にもかなり慣れてきていて、多忙ながらも、うまく係内を回していたと思っていました。
部下は全員年上でしたが3人ほどおり、私は基本残業でしたが、3人とも定時に帰ったり、有休を消化できたりするくらいには、業務状態を確認したりサポートをしたりしていました。
私をパワハラで訴えたのは、その部下の中の一人。
その年度から私の下につくことになった50代半ばの男性・Aさんです。
言ってはなんですが、あまり仕事のできはよくなくトラブルも起こすため、部署をすぐに異動させられていました。
たまたまその流れで私の部署へとやってきた人でした。
元々そういった人だと事前情報があったので、私の部署にきたときも、業務負担が重くならないように配慮したり、一つのことを覚えてから次の仕事を教えるという形で一年間相手をしていました。
そういった状況だったので、部署の中でもその人が圧倒的に仕事が少なく、
「もっとAさんの仕事を増やしては?」
と他の部下からも提案されているような状況。
ただ、実際に業務量を少なくした状態でさえ、仕事を回すとろくに調べることなくミスだらけだったり、締切を長めに設定しても、直前まで行おうとせず、直前になって、
「この仕事できません!」
などと悪びれもせずに言ってきたりするような人で、結局私が仕事を教えたり、どうにもならないときは代わりに請け負うということも多々ありました。
ですので、とても追加で仕事をさせるのは無理だろうと感じていました。
部下Aが訴えた理由
そこまで配慮して仕事をしていたので、まさかAさんから訴えられることがあろうとは思いもしませんでした。
疑問だらけだったため、部長になにをパワーハラスメントと言っているのかを尋ねると、
〇Aさんのパソコンにやりたくないといっている仕事に必要なソフトを、Aさんの同意もなしにインストールした
〇仕事の締切についてしつこく言ってくるのでプレッシャーを受けた
〇私は本来の業務よりもたくさん仕事をしているのにまだ仕事をさせようとする
といったものがAさんの主だった訴えでした。
それを聞いて、
「なにを言ってるんだ」
というのが正直な私の感想でした。
というのも、どれも筋違いで的外れなものばかりだったからです。
訴えに対する私の言い分
一つ目のパソコンに同意なしにソフトをインストールしたという件。
これはちょうどその頃に会社全体のパソコンの設定変更が必要となっていて、その設定変更を行ったというものでした。
Aさんのパソコンだけでなく、社員が使っているパソコンについては、一部の例外を除いてすべて同様の作業を行っていました。
ただ、Aさんが自分のパソコンをいじられるのが嫌だと拒否していたのでなかなかできず、一番最後までもつれ込んでようやく設定変更をしたというものでした。
ですのでそもそもAさんに頼んでいた仕事とは関係のない設定変更で、ソフトのインストールもしていない。
ついでにいうなら、何度も必要なことだから設定変更をさせてほしいと伝えた上で行ったことでした。
二つ目の締切に対するプレッシャーを与えたというもの。
これも話を聞くと、ある物品についての購入計画を立てて社内決裁を取り、調達を行うという仕事で、ほかの部下に任せれば少なくとも1か月あれば終わる仕事でした。
ただAさんということもあり、3か月も前にどういう手順でやればいいのかというメールを送った上で説明してお願いした仕事でした。
しかし、締切が近づいてきても、一向に動く気配がない。
締切になって聞いてみても、
「いまやっているところです」
の一点張り。
締切から2週間が過ぎて再度状況を確認しても、
「ほかの業務が忙しくてできない」
「家庭の事情があってそれどころではない」
などと開き直る始末。
結局、進めないわけにはいかないので、Aさんが最終的にやらなかったとしても困らないように、私の方でも準備だけは進めていた案件でした。
三つ目の訴えはなぜそう感じたのかよくわかりませんでした。
上記したように、本来任せるはずだった仕事よりもはるかに少ない仕事しかまだ預けていない状態だったからです。
私の部下になった時点で、最終的にはこれくらいの仕事をしてもらうというリストを手渡し、最初は少しずつ教えていき、慣れてきたら業務を本来の量にしていくという説明もしていました。
ですので、本来業務を越えた仕事をさせようとしたというのもまったくの勘違いでした。
証言のすり合わせと証拠の提出
私の中では明らかにおかしな話でしたが、訴えがあった以上、調査が行われます。
私も部長や課長から様々な事情聴取を受けました。
〇Aさんの訴えた内容は実際にあったことなのか
〇Aさんがこう言われたという内容について記憶にあるか
〇それぞれどの日に起きた出来事か
〇Aさんとやりとりをしていたときに周囲には誰がいたか
〇あなた自身が何か主張・反論しておきたいことはあるか
主だったところだとこういった内容でした。
AさんはAさんでいろんなことを訴えていたので、その証言とどの程度お互いの認識が合っているのかをすり合わせようとしていたようでした。
ただ、私自身も時系列などはその場ではすぐに思い返せないものもあったので、わかる範囲でひとまず答えました。
最後に何か反論したいことはと聞かれたのですが、あまりに疲弊してしまい、
「いや、もうふつうに仕事をしてくれるだけでいいんですけど……」
ということしかできず、主張や反論どころではありませんでした。
翌日あるだけの証拠と時系列を提出
その場ではそうとしか答えられなかった私でしたが、家に帰るとと少し冷静になります。
ちょっと投げやりになりそうな部分もあったのですが、
「いやまて。こんな主張を通してしまっていいわけがない!」
と思い立ち、記憶にある限りのAさんとのほぼ1年間のやり取りを洗い出すことにしました。
不幸中の幸いと言いますか、Aさんは仕事もさぼるし、締切は守らないし、口頭の指示は、
「聞いてません。言われてません」
と主張することもある人だったので、Aさんとのやり取りだけはできるだけ口頭だけではなく、メールや文章とセットで行うことにしていました。
ですので、私がした指導や仕事の配分が正当であるという証拠をどんどんと積み上げることができました。
メールの中には締切等の日付について書かれている内容もたくさんあったので、かなり正確な時系列ができあがり、翌日には部長に提出することができました。
パワハラの訴えは認定されず。
私が作ったAさんとのやり取りの時系列やメールの文章を丸々部長に提出しましたが、それがAさんとの証言とは大幅に食い違いまくっていました。
〇Aさんの証言に信憑性がなかったこと
〇やり取りの時系列やメール、文章などの証拠が残っていたこと
〇Aさんとのやり取りを周囲で聞いていた人がたくさんいたこと
〇Aさんの本来業務について、正しく課長も認識してくれていたこと
などから、パワハラの訴えについてはパワハラとしては認定しない!という結論をいただくことができました。
結論が出るまではわずか10日ほどでしたが、とても気持ち的には疲れていたので心からほっとすることができました。
私が対策しておいて良かったこと
今回のパワハラの訴えについて、内容的には明らかにパワハラと言えるものではありませんでした。
でも、状況によってはこれだってパワハラとして認定される可能性があり、そうなれば私に対して何かしらの処罰が下されていたことでしょう。
認定されずに済んだのは、私自身がAさんのことを少し警戒していたこともあり、ふだんから下記の意識していたことがあったからだと思います。
〇Aさんとのやりとりはできるだけメールなどの形に残すこと
〇できるだけ、Aさんとは二人しかいない場所ではやりとりをしないこと
〇上司と部下のことについてはふだんから情報共有を密にしておくこと
そのおかげで周囲からは私にとって有利な証言もたくさん頂けましたし、メールなどの証拠も含めて、認定されずにすみました。
また、仕事を日頃からしっかりとやっていましたし、他の部下や後輩に対しても丁寧に接していたのもいい結果が得られた原因だと思います。
訴えられたときにしてはいけない3つのこと
投げやりになる・諦める
パワハラで訴えられることってかなり衝撃的なことです。
私自身もその日、訴えらえたことを聞いてからはしばらく呆然としていました。
きっと中にはそれで、
「もうなるようにしかならない」
と投げやりになったり、
「訴えられたらもうどうしようもない」
と諦めてしまう人もいるかもしれません。
でもそれは自分にとって決していいことではないですよね。
何もしなければどういう結果になるかわかりません。
でも、自分の行動次第で訴えられてからも少しでも有利な状況に持っていくことができます。
私が訴えられたときも、私が証拠を探したり、時系列を詳細にして提出したりしなかったらどうなっていたか。
もしかしたら、訴えが出てくる以上、行動になにか問題があったのだ!と処罰の対象になっていたかもしれません。
ですので、諦めたり投げやりになることなく、できる限りのことを短時間で行いましょう。
二人で解決しようとすること
訴え出た相手と二人で解決しようとすることは絶対にしてはいけません。
これをすることで、元々の訴え自体に正当性がなく、認定されないようなものだったとしても、二人で解決しようとしたことで、それ自体がパワハラとされてしまうこともあります。
訴えられたからと、その人への態度を変えてしまうのもよくないですね。
たとえ訴えられたとしても、結論が出るまでは、それまでと変わらない態度で生活をすること。
訴えてきた相手とは、どんな場所でも極力二人にならないこと。
そのパワハラの事案については触れないこと。
これらを意識しておいた方がいいです。
周囲に訴えられたことを話すこと
これについては、
「誰にもこのことは話さないように」
と担当した上司から釘を刺されるはずです。
これは解決したあともですが、こうした内容は機密事項にあたります。
そのため、もし自分が話してしまってそのことが発覚すれば、そのことが自分にとって不利になる可能性が高いです。
正直、私も訴えらえたときは腹も立ちましたし、いろんな他の同僚に愚痴りたくなりました。
でもそれをしても、一時的に気持ちがすっきりするだけで何も解決しないどころか悪い結果を引き寄せることにもなりかねないのでやめておきましょう。
もし相談するのなら会社とは関係のない友人や信頼のおける人にとどめておくことをおすすめします。
パワハラな他人ごとではない
今回、私がパワハラで訴えられてきたことを紹介してきました。
私自身、まさか訴えられることがあるとは思っていなかったので、会社でハラスメントについての研修があっても、
「自分には関係ないことだ」
とどこか他人ごとでした。
でも実際にはそうではなかったんですね。
世の中、どんな人がいて、どんな風に感じているのかってわからないものです。
こちらが良かれと思ってしたことだって、人によっては不愉快に感じたりすることもあります。
丁寧な対応をしていても、悪意を持って受け止める人もいます。
万が一、自分が訴えられることがあったら……。
そんなときは焦るのではなく、少しでも自分にできることを考え、自分の行いの正当性を主張していきましょう